だからいいんだ、これからも。

寝転んで天井を見上げていた。天井というより電灯を見つめていた。もう何周も同じ道を辿った思考がピタと止まって、「死にたい」と誰かが言った。旧知の友人に再会した気分だ。「どうして人生はこんなに苦しいんだろう」

しょっちゅう一緒にいたその友人に、別れを告げたのは去年の春だった。何度もお別れを言ってきたけど、それまでとは何かが違うと思った。連絡をブッチしたり一方的な絶縁状を送りつけたりするのではなくて、握手して違う列車に乗ったような。

だけどまた出会ってしまった。友人が言ったことよりも、また出会ったということに動揺した。ショックで文字通り立ち上がれなくなった。

整体に行った。寝転がってばかりなのに腰痛が限界に達していた。最近体調悪くて……。風邪ですか?いや、たぶんメンタル的なもので……。先生はガチガチに固まった背中を押しながらいくつか質問してくれた。カウンセラーという仕事をしているのに自分がこんなことで落ち込むなんて…と語った声に涙が潤んだ。いかん、整体で泣くなんて。

質問の中身はよく覚えてないけど、背中から聞こえる先生の声はまるで花瓶を扱うようだった。どこまでも透明で薄く、華奢で高価な花瓶ではない。その土地の土を丁寧に練り上げて焼いた、作家の思い入れのある作品のような。その造りに敬意を払いながら、指先に繊細さを込めるように。そのように扱われたことで不意に自分の本心に触れたのだろう。あれはそういう涙だった。

誰にだって死にたい夜がある。と一般化できないほどその夜は辛い。だから、カウンセラーの私にも死にたい夜がある。あなたにも死にたい夜があるかもしれない。だけど、私にも支えてくれるカウンセラーがいる。コーチがいる。夫がいる。それだけじゃない。整体の先生にも本の向こうの又吉直樹にも支えられている。そうやって生きていくんだ。だからいいんだ。これからも。