私はあなたを許します。
なぜなら私は、あなたがあなたらしく幸せに生きていきますように と祈りたいから
私は私らしく幸せに生きていきます と胸を張りたいから
あなたが私にしたことは、私が一途に大事にしていたものへの侮辱でした
力によってそれをねじ曲げられ、私は屈服してしまった自分の弱さにも絶望しました
このままアクセルを踏み込んで電信柱に突っ込んでしまった方が、この屈辱を抱えながら生きるよりも楽だとさえ思いました
車の窓をピッタリ閉めて泣きました
今でも私は怖いのです、あなたが
あなたのようにちょっと早い調子で話されるだけで、ちょっと話を遮られるだけで、ちょっと甲高い声を聞くだけで
私の体は硬直して私の体じゃないみたいになってしまうのです
離れていても、私はあなたから離れられずにいました
折に触れて、あなたに何らかの報いが訪れることを願いました
風の噂であなたがいきいきと活躍していると知ると、この世の不条理を嘆きました
どうしてこんなに人の深い部分を傷つけた人が、誰かに認められたり愛されたりするのかと。
だけど私はあなたを許します。
なぜなら私は心のどこかで、もしかしたらあのとき曲げられたもののさらに奥で、
あなたが幸せに生きていきますように と祈りたいからです
私とは仲良くなれないかもしれない、二度と会わないかもしれない、
私のことは嫌いかもしれない、あなたがまた誰かを深く傷つけることがあるかもしれない
だけど、それでもどこかで幸せに生きていますように と祈りたいのです
なぜだろう。
なぜなら、
人生の中で、ほんの一瞬だったかもしれない
だけどまばゆい一瞬だったからです
金曜日の夜、ガラガラの焼肉屋で
薄いビールに文句を言いながら社会や理想について語り合ったこと
あなたが甲高い声でカラカラ笑うと、つられて私も笑ってしまって、つい考えすぎてしまう私はその声に何度も救われたこと。
真昼の喫茶店で、取引先が怖くて私が黙って床を見つめることしかできなかったとき、一番言いづらいことを口にして、私を守ってくれたこともありました。
頭も良くて仕事だってできるあなたに、「いや、俺にはできないわ。なるちゃんすごいな」と言われて、どんなに嬉しかったか。
許し難いことや傷つけ合うことがあったのと同じぐらい、支え合い励ましあい、尊敬しあったことも真実でした。
きっとあなたも追い詰められていたんだと思う
売り上げを作らなきゃいけない、目標を達成しなきゃいけない、実績を作らなきゃいけない、何か新しいことをしなきゃいけない
それは周りからのプレッシャーや、あなたが昔の自分から脱却するためにと自分にかけたプレッシャーだったのかもしれない
それにあなたに私はとても壊れやすく見えていたんだと思う
だからこれは言ってはいけない、この部分は自分がしっかりしなきゃいけない、こいつを潰すわけにはいかない、と、人一倍何かを背負ったのでしょう
そしてあなたはもしかしたら、私よりも傷付いたかもしれない
目の前で何度も泣かれ、被害者ヅラをされ、
あなたにだって言いたいことがあった
あなただって傷つけられたものがあったのに。
その苦しみをあなたは言葉にすることができたんでしょうか。
私にはたくさん言える人がいたけど、あなたにはその場があったのでしょうか。
社会から強く生きることを求められているあなたが。
あなたは人の心を踏みにじっていく人ではありません
あなたは人のために誰よりも汗をかける人でした
私も、あなたのように
小さいことを笑い飛ばし、
言いづらいことをこそ、毅然と言える人になりたい
上下なんか関係なく、人を尊敬し、それを真っ直ぐな言葉で伝えられる人になりたい。
私の短い人生の中で、あなたに出会えてよかったです。
少年漫画みたいに青臭くて熱い瞬間をあなたと過ごせてよかった。
そしてこの傷からも私は本当に多くのことを学びました。
ありがとう
あなたがあなたらしく幸せに生きていくことを、私は心から祈っています。